「白保竿根田原洞穴遺跡の保存と調査に関わる要望書」について

 沖縄県石垣市白保竿根田原洞穴遺跡について、九州旧石器文化研究会では、中・四国旧石器文化談話会と協議のうえ、下記の要望書を提出することとなりましたのでお知らせいたします。皆様方のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

関係各位の皆様へ

 しのぎよい季節となりましたが、皆様方には益々ご清栄の事とお慶び申し上げます。
 皆様方には、日頃より歴史教育や、地域の歴史的遺産の保全・活用への取り組みを進められておられることにつきまして、深く感謝と敬意を申し上げます。
 私ども九州旧石器文化研究会(昭和54年結成)並びに中・四国旧石器文化談話会(昭和59年結成)は、九州地域並びに中・四国地域の旧石器時代の人類活動に関わる資料である遺跡や遺物に学び、歴史学的研究を促進すると共に、地域的遺産としての当該期資料の保存と活用も検討や取り組みを行っている民間の研究組織です。
 両会のうち九州旧石器文化研究会は、当時破壊の危機に直面していた大分県岩戸遺跡の発掘調査の検討会を契機に結成され、本年で31年目を迎えます。岩戸遺跡がその後、九州の旧石器時代遺跡として初めて国指定史跡となりましたことは忘れ難い喜びです。
 さて、このたび沖縄県石垣島白保竿根田原洞穴遺跡の発見と、人類化石の発掘は両会におきまして最も注目している出来事です。年代測定可能な旧石器時代人類化石資料は日本列島どころか、周辺諸国を見渡してもここ30年間ほぼ皆無でした。
 九州旧石器文化研究会では、平成22923日に熊本県において幹事会を開催し、また、中・四国旧石器文化談話会では、平成22103日に徳島県において幹事会を開催しました。それぞれの席上で白保竿根田原洞穴遺跡の保存に関わる要望書を提出する事が全員一致で合意致しました。
 関係各位の皆様には、なにとぞこの世界的発見の重要性に鑑み、さらに一層の地域遺産の保全・活用への取り組みを進めて頂きますよう重ねてお願い申し上げる次第です。
 このたび、要望書を提出いたしますが、貴職におかれましては既にさまざまな取り組みを進められておられる事と推察致します。
 どうか、私ども両会の取り組みにつきましてもご理解を頂き、よろしくご配慮下さいますようお願い申し上げます。

平成221010

九州旧石器文化研究会  会長 萩原 博文
中・四国旧石器文化談話会 代表 藤野 次史


平成221010

文化庁長官 近藤 誠一 様
沖縄県知事 仲井眞 弘多 様
石垣市長  中山 義隆 様

九州旧石器文化研究会  会長 萩原 博文  

中・四国旧石器文化談話会 代表 藤野 次史  

 

白保竿根田原洞穴遺跡の保存と調査に関わる要望書


 新石垣空港建設に伴い調査され今春成果の一部が公表された白保竿根田原洞穴遺跡は、出土した化石人骨の放射性炭素年代値が、約2万年前と計測され、現在、琉球弧から日本列島内における確実な人類標本としては最古の資料と判断されました。この遺跡の発見は、アフリカ大陸に端を発する新人(ホモ・サピエンス)のユーラシア大陸拡散の東限域の様相を解明する手懸かりになると共に、旧石器時代における遠距離海上移動や日本列島への人類到達についての貴重な資料となることは言うまでもありません。今後、当遺跡並びに周辺域の調査を通じて、日本列島への人類の移動や旧石器文化の展開に関しても新たな成果が期待されます。これらは、日本の旧石器時代研究上にとどまらず、人類史上またとない高い学術的意義を有するものです。
 九州旧石器文化研究会並びに中・四国旧石器文化談話会では、この貴重な世界的遺産である白保竿根田原洞穴遺跡とその周辺地域について、関係各位に対し下記のように万全の調査体制での対応をお願いすると共に、白保竿根田原洞穴遺跡並びに今後周辺で発見される可能性のある当該期関連遺跡の、保存と活用への取り組みをお願いするものです。
 なお、当件に係る具体的な措置および対応については、然るべき時期にご回答をくださるようお願い致します。

1. 白保竿根田原洞穴遺跡と並びに出土遺物については、その学術的重要性に鑑み、考古学、人類学、古環境学等の専門研究者による調査プロジェクトチームを設け、万全の体制により調査、研究を実施して頂きたい。

2. 白保竿根田原洞穴遺跡とその周辺には、発見された化石人骨以外に、人類活動に関わる遺跡などが存在する可能性があります。それらが空港建設やその関連工事で損なうことの無いように一定範囲の確認調査を早急に実施して頂きたい。

3. 現地において、遺跡や周辺環境の破壊を最小限にとどめ、史跡指定を視野に、遺跡の保存、整備、活用施設等の設置、公開、教育普及等への取り組みを検討して頂きたい。


  なお、白保竿根田原洞穴遺跡の2010年度の発掘調査は、既に終了いたしましたが、その詳細な調査レポートは、沖縄県立埋蔵文化財センターのホームページに掲載されています。